こんにちは。 日本ホームインスペクターズ協会 理事長の長嶋 修です。 日本ではこれまで、あまりにも新築住宅建設に偏重しすぎた結果、中古住宅市場の整備はおざなりになっていた感も否めません。我が国ではいつのまにか、住宅は価値がどんどん落ちていくものだ、という風潮が出来上がってしまいました。 日本の住宅は新築時に最も価値が高く、買って住んだ瞬間に中古住宅との烙印を押され、いきなり15〜20%も価値が落ちます。そしてその後も市場価値はなだらかに落ち続け、20〜25年でその価値はゼロになってしまいます。 「新築住宅の価値=業者(企業)の利益」であるのに対して、「中古住宅の価値=ユーザー(国民)の利益」です。これまで日本の住宅市場は、業者の利益に過度に偏重してきました。国民一人ひとりの利益はついぞ、省みられることがなかったのです。 もう少し正確に言えば、耐久消費財的な性格を持つ新築住宅が売れ続けることで日本経済を盛り上げよう、そのことで結果として国全体が豊かになろうという、いわば公共事業的な発想が、住宅の世界に採り入れられていたのです。 価値がゼロになる耐久消費財を、私たちは住宅すごろくという名の、土地に価値があるとされるルールのなかで、ゴールを競いあって買ってきました。その集団的な動きが、これまでの日本経済を牽引してきたのです。 ところが、やがて確実に訪れる本格的な少子化・高齢化や、圧倒的な住宅余り、もはや待ったなしの環境・資源問題への取り組みなどがあいまって、中古住宅市場の整備、中古住宅の価値保全は、国民のみならず、国全体の利益につながるものだとの意識が醸成されつつあります。ここにきて、ようやく。 中古住宅の価値が落ちなければ、定期的なリフォームの需要が増えます。住み替え頻度も、大幅に増大するでしょう。 日本人は現在、一度住宅を購入したらなかなか住み替えをしません。それは、国民性でもなんでもありません。住宅の価値が落ちてしまっているために資金計画が成り立たず、住み替えができないだけです。 ライフスタイルやライフサイクルの変化に合わせ、あたかも洋服を着替えるように住み替えることができたら、私たちは住み替えをどんどん実行に移すでしょう。不動産仲介業は、その大きな恩恵にあずかるに違いありません。 また高齢化社会において、高齢者にもお金を使ってもらわなければならないでしょう。もし住宅の価値が落ちなければ、それを担保にお金を借りて生活資金やレジャー資金に回すことができる『リバースモーゲージの活用』も期待できます。返済は自分が死んでから住宅を引き渡せば終わり、というリバースモーゲージへの潜在的なニーズは大きいはずです。高齢者以外の世帯も、自宅を担保としたローンの利用など、さまざまな場面で内需経済効果が期待できます。 昨年、住宅市場の転換を加速させる、一つの取り組みが発表されました。国土交通省が、一つひとつの建物ごと、点検・メンテナンスの履歴、震災時の被害状況などの情報をまとめたデータベースの制度づくりに、2008年度から着手するというものです。このデータベースのことを、『住宅履歴書』と呼んでいます。 現在、中古住宅の購入を検討している購入者が不動産仲介業者に物件情報を依頼しても、送られてくるのはB4の紙1枚だけ。そこにあるのは販売価格、宅地建物取引業法で定められた最低限の物件概要、間取り図、そして『陽あたり良好』などのキャッチコピーだけです。 このわずかな情報と物件現物を見て、購入の可否を判断しなければならないのが中古住宅購入の実情。国土交通省はいよいよ、この状況を改善しようと動き始めました。 条件を満たした履歴書には、国が認証を与えるというもので、認証を受けた履歴書を使う住宅については、固定資産税や売買時にかかる登録免許税、不動産取得税を軽減するというものです。 とはいえ現実には、これらデータが残っていない住宅も数多く存在します。さくら事務所のホームインスペクション(住宅診断)サービス経験では、中古住宅のおよそ6割程度で設計図書を保管していません。図面がないということは、例えば大幅な改修やリフォームを行う際の見積もり根拠もないということです。 また、中古住宅の中には耐震性に不安のある住宅も多く存在するのが実状。国土交通省は新耐震基準ベースで切り分け、耐震性に不安のある住宅は1000万戸超と言っています。しかし実際には、その倍以上あるのではないかと現場で実感しています。 合法的にきちんと設計され、かつ適切にメンテナンスされている住宅は、残念ながら思いのほか少ないと言えます。ましてや木造住宅の場合、2000年の建築基準法改正まで耐力壁や金具の位置など、耐震にかかわる取り決めがあいまいでした。物件によって、品質にかなりのバラツキがあります。 これら既存の住宅はインスペクションを行うことで、「そのままで問題がない住宅」「補修を加えて永く大切に住み継いでいく住宅」「保全できず取り壊す住宅」――の、大きく三つに切り分けていかなければなりません。図面のない住宅は、インスペクションを行って新たに図面を起こす必要もあります。 新築であれ中古であれ、市場の取引時点での健康診断(ホームインスペクション)を行い、住宅の現状把握をし、適切な補修・リフォームを行うこと。これを繰り返すことで、中古住宅市場全体の信頼感を醸成していくのです。 もし200年住宅が実現すれば、建て替え需要が確実に減少する分、住宅業界は仕事が減ります。それについて福田首相は「そのかわり中古流通市場が活発になりますから」と発言していますが、それはその通りです。 現在、120万戸程度で推移している新築着工をこのまま継続するのはもう不可能です。その分、中古住宅流通量がいまの2倍・3倍と活発になればよいし、それは十分に実現が可能であり、そのためには取引時点での中古住宅の「健康診断」が不可欠なのです。 米国では、既にインスペクションが常識になっています。州によって異なるものの、取引全体の70%〜90%でインスペクションが行われているのです。そして日本でも今年以降、かなりのスピードで普及し、近い将来に常識となるでしょう。 さくら事務所には既に、状況によってはお断りせざるをえないほどの依頼が殺到しているほか、インスペクション(住宅診断)事業を行う民間の企業や個人も相当数、増加しています。 そこで2008年4月を目処に、ホームインスペクション(住宅診断)を行う企業や個人で組織する「日本ホームインスペクターズ協会」も発足させることにしました。インスペクターの技術基準・倫理基準などについて業界のスタンダードを定め、中古住宅購入者が安心してホームインスペクションを利用することで、中古住宅流通の活性化に拍車がかかることを期待しています。 わたしたち日本国民が、この資本主義経済社会で安心できる暮らしを営むためには、なにより国民が資産を持つことが必要です。日本の住宅市場の問題を解決すれば、国民はもっと豊かになれるのです。 20年や25年で価値がゼロになる住宅市場を、どこまでも価値が落ちない住宅市場に変化させることが必要です。国民に、本当の意味での資産を持たせるため、日本ホームインスペクターズ協会は住宅市場の適正化・透明化、そして活性化に務めます。