座談会第4回

・資格を取って、今後のこと・・・

資格を取って、今後のこと・・・

大西

それでは次に、ホームインスペクターの資格を取られて、ご自身の業務に実際に活かされていることや、今後取り組んでいきたいとお考えのことなどありましたら教えていただけますか?

市川

私の場合、資格を取得するために得た知識というより、取得してから交流が広がり、得た知識の方が大きいかと思っています。
そして、これらの知識はマーケティングを行う上でも、営業活動のコミュニケーションにおいても大いに役立っています。

大西

たとえば、どのように?

市川

主に新築住宅市場においてのマーケティングを行っているのですが、ご存じの通り既に新築着工は激減している一方、中古住宅市場やリフォーム市場は拡大化しています。
この住宅市場全体の変化を肌で感じることで、新築市場の捉え方が変わってくるのですが、この資格を取って交流の輪が広がり、視野が広がったことが私にとって大きな収穫でしたね。

大西

鹿嶋さんはいかがですか?

鹿嶋

建物を調査して、内容をわかりやすく説明するというホームインスペクターの仕事は、今までやってきた建築・不動産の仕事の延長線上にあると思っています。
たとえば自分がやっていることなんですが、物件の引き渡しの時に、水回りのここをちょっと注意すればいいとか、排水の仕組みを実際水を流して見せてあげるとか、そういうホームインスペクター的な視点を持って説明やアドバイスをしてあげると、買主さんはみんなすごく満足してくれるんです。
これを不動産業界の営業マンがみんなやれば、クレームも減ると思いますね。

大西

今まではイメージだけで売っていたけれどそういう生活感のあるアドバイスをちょっとできるだけで、すごく身近なものとして購入者の方にはわかりやすく伝わるんですね。

鹿嶋

また、私も最近会社を立ち上げて準備しているのですが、今までの経験と、ホームインスペクター試験の内容とをうまく組み合わせた形で仕事がしていければと思っています。
この資格がなければそういった仕事という発想もなかったし、そのままサラリーマンだったと思います。会社の事情で副業OKになったのですが、じゃあ何をするのかという時に、自分はホームインスペクションというものを知って、方向性が広がったと思っています。

大西

それは素晴らしいですね。今後のゆくえがますます気になります。試験を通じて、結果独立し、幅が広がっていくというのは、新しい会員さんにとっても参考になると思います。

鹿嶋

あとは、今所属している会社にも、今後こういうことをやっていった方がいいのではないかと提案したりしています。
新築の業界もこれからますます厳しいので。

大西

ありがとうございます。
ぜひ広報していただけるとうれしいです。

内山

私は設計をやってきたのですが、実際、設計をやる人間って図面や空間をつくることに魅力を感じているところがありますが、ホームインスペクターは検査そのものが仕事となりますので、業態が異なります。
ほかの建築士や学生さんにもホームインスペクターの魅力を伝えていかないといけないと思っております。

大西

お題目として政策的にも「ストック市場に転換した」と言われて、
「うーん、新築で図面ひいてるだけじゃダメなのか」…と、
そこで止まってしまうと面白くないですもんね。

内山

そう、それだとなんとなく夢がないじゃないですか?!
学生の時はみんな「こんな図書館をつくりたい」とか夢があったと思うんです。
それが徐々に新築からリノベーションということになって、これについてはブルースタジオさんなどが「リノベはかっこいい」という風潮、夢みたいなのを作ってくれましたが、今度はホームインスペクションで学生たちが夢を見られるようにしたいと思っています。

大西

古い建物を診断するのはこんなにカッコイイ!と。

内山

そうですね。

田中

私はホームインスペクターの資格をとったことで、B to B(企業間取引)は別としても、個人間の取引の場合は、原則ホームインスペクション付きの仲介事業にしようということで、いろいろ準備をはじめているところです。
仲介手数料の額は比較的大きいので、ホームインスペクションの費用は仲介手数料に含めるという風にして損しない程度に。まあ、まだ実験的なところがありますがこれで広がっていくなら面白いんじゃないかと。
そんな感じで自分のビジネスに実際に取り入れていこうとしています。

大西

それも軌道にのってきたところで、ぜひ会報誌で取材させていただきたいですね。

田中

あと、先ほどお話したような「これ絶対雨漏りじゃない?」といったことが多少なりとも見抜けるようになってきたかなと。
ですが、ひとつ感じたことは、明らかに雨漏りした跡がある場合はよいのですが、ホームインスペクションした時はなんともないように見えても、壁をはがしてみたら雨水が漏れ、木部まで腐食していたということがあったりすると、目視調査を前提とするホームインスペクションにちょっと限界を感じたり、不安を感じたりもします。

大西

それについては理事の大久保さんいかがですか?

大久保

それを補完するように既存住宅の瑕疵担保責任保険というのがでてくるわけです。
ホームインスペクターが、その時は見られなかったけど、あとから何か出てきたときに保険がおりるという仕組み。
そうでないと非破壊での調査の限界というのはどうしてもありますからね。
逆にあやしいところを全部壊して見るなんてことになると今度は売主さんの方に負担がかかってしまいますから。
売る側の人たちが自分たちで検査をして流通させようという風になるまでは、当面買主側で調べて、そのうえで何かあったら保険でカバーしようという風にせざるをえないと思います。(※1)

大西

実際のところはもちろん非破壊の限界というのはあるなかで、それでも熟練のホームインスペクターが見ればかなりのことがわかるという、ホームインスペクター自身の精度・スキルを上げていく取り組みも当然重要になってきますね。
それと保険の仕組みを協会の中で使えるようにするという2本立てでいくことで、かなり利用するメリットが出ると思います。
大久保さんありがとうございました。

僕の場合は今まで似たような仕事をやってきたので、自分に対して活かすというよりもどちらかといえば、自分がもっている知識をフィードバックできればという思いがあります。
実は6月のセミナーで大久保さんがおっしゃっていたことですごく納得したことがあって、それは調査する宅内に入って何か見たときに「あ!とか、お!というヘンな声を出すな」というものなのですが、それってほんとにうなずけることです。
建物の状態とまったく関係ないことでもいちいち買主さんは不安になっちゃうんですよ。

田中

この前人間ドックで胃カメラ飲んだときの感じとまったく同じですね(笑)。
お医者さんに「あ!」とか「ん?」って言われるとすごく不安になっちゃいますもん。

そう、だから調査を手伝ってもらう職人さんにも不用意に声を出さないようにって教育してるんですけど、そういう実務中の実務的なことって経験していないと絶対わからないんで、これからホームインスペクションに取り組まれる方々にお伝えできればと。

大西

経験していない方にこそ、知っていただきたいことですよね。

ホームインスペクションってサービス産業なんで、知識だけでなく、お客さんとどのようにコミュニケーションをとっていくか、というところの大切さもお伝えできればと思っています。
もちろん僕が知らなかった知識を得る機会も今後あると思います。

これから試験を受ける方へのアドバイスとメッセージ

大西

では最後に…
これから試験を受けられようとする方に「ここだけは勉強しておけ」というアドバイスがあればいただきたいと思います。

市川

この資格のための勉強はほとんどせずに、合格してしまったので偉そうなこと言えませんが、今年の試験からテキストや過去問題がありますのでそちらで勉強されておくと良いと思います。
それと、試験会場での集中は少なくとも必要ですね(笑)

内山

私は建築系の人間なので、その立場からいえば、
不動産の知識をつけておいた方がいいと思います。
自分は両手取引(※2)とはなんぞやというくらいだったので。

田中

確かに取引の流れみたいなところは、何かの本に書いてあるというわけでもありませんし、宅建の知識ともちょっと違いますしね。
やったことがないとわからない問題だなとは僕もやりながら感じていました。

大西

建築系の本にはまずないでしょうしね。
お知り合いの方が不動産取引をされるときについて行ってみる、なんていうのもアリかもしれません。もちろんテキストを参考にしていただくのもよいと思います。

鹿嶋

自分はどちらかというと不動産系、仲介業の方に受けてもらいたいと思うので、少なくとも建築の知識は身につけてほしいと思っています。
自分は両方やっていたのでホームインスペクターの仕事、というところだけを中心に勉強したわけですけど、それはやっぱり補足的な部分であって、とりあえず建築の勉強をひととおりはやってもらいたいなと。勉強するだけでも仲介の仕事も変わると思うので。

大西

そうですね。
仕事は変わるでしょうね。

鹿嶋

自分に知識があれば、多少問題を抱えた物件についても、売主に対して「こういう風に売ればいいんじゃないか」とかアドバイスもできるのですが、知識がないと、とにかく売ればいい、何かあった時は法律・契約でしばっておけばいいという発想しかできなくなり、それがあると買主さんも戸惑ってしまうところがあると思うので。

大西

確かに契約でしばってしまうことで短期的には自分はその物件から早く手をひけたとしても、結局は「中古はこわい」というイメージが広がることによって買う人が少なくなってしまう、それが自分の首をもしめてしまうという循環があるかもしれません。

鹿嶋

もし中古を買って失敗してしまったらそれを友達とか、知り合いとかに言うと思うんですよ。
そういう悪い情報・イメージがこれから家を買う人に広がってしまって、中古住宅流通に歯止めがかかってしまうのは業界として避けたいですね。

鹿嶋さんがおっしゃるように、技術的な裏づけは必要だと思います。
ホームインスペクションは不動産取引の側面を補助する・フォローする仕事でもあるわけだから、不動産取引の流れといったものも必要ですが、じゃあ何を柱にするかと言ったらやはり技術的な部分なのではないかと思います。

田中

僕は仲介屋さんで受験をしようとしている人たちに告ぐって感じで、
やはり建物の知識がないところからはじめるわけですから、最低でも参考図書の2冊(※3)は勉強しないとダメだと思います。僕の場合もまず言葉の意味から調べましたしね。
ほんとこれを知らずに売ってるんだなぁと痛感しましたから。

大西

建築系・不動産系と密接につながっているようで分断されている2つの業界の人が、お互いの分野のことを勉強しあったら、バイリンガルじゃないですけど強みが増しますね。

それでは、最後の最後になりますが、今年受験予定の方、受験しようか迷っていらっしゃる方に何かひとことずつメッセージをいただけますでしょうか?

田中

ホームインスペクションという仕事っておそらく今後の日本の住宅業界にとって極めて価値ある仕事になるだろうと僕は思っていて、それは住宅産業を活性化させることで経済成長につながるという意味でも、また不動産は人が住まう以上幸せと豊かさと安心を得られなければならない、そういった意味でも。
業界にいらっしゃる方なら絶対受けるべきだし、特に仲介業界では今後「建物・不動産・金融」の3つのリテラシーが必要になってくるので。

大西

今後、厳しい業界で生き残っていくためには必要でしょうね。

田中

差別化のひとつとして絶対必要だと思うし、早めにやったもん勝ちだと思います。
ITでマッチングが進んでしまう時代なので、そこに人が介在する価値は少なくなっていると思います。住宅売買における仕事の価値は、建物を見極める力になるのではないかと。
こういう風に考えている人は徐々に増えていると思います。

内山

新築も先細りといわれている中、設計事務所としてはリフォーム・設計のみならず、ホームインスペクションという選択肢も持っておいた方がいいと思います。

市川

今後、住宅ストック型社会に向かっていく中で、住宅の仕様・流通・劣化についてバランス良く分かっている人材がこの業界で求められていくと思います。
試験を受けることである程度幅広く学ぶことができるので、
住宅産業に関わるすべての方へお勧めしたいと思います。

大西

菅さんもおっしゃっていましたが、「この分野だけ」という細い部分でのスペシャリストというよりも広く知識があって、総合的に提案できる人材が必要になりますよね。

鹿嶋

ユーザーさんも昔は一つの仲介業者に任せる人も多かったですが、今はいろんな業者さんをまわって、比較検討されている。なので知識を持っている方が絶対強いと思います。
合格する、しないは別として、勉強するキッカケにはなると思うので知識を得るというつもりで勉強してみてもらいたいと思います。

大西

ユーザーの方が賢く、かつ熱心に勉強されていて「担当者」も見極められていますね。
私が所属するさくら事務所でも「物件情報はネットに出ているから、まずは相性やスキルが自分に合った担当者をみつけて、その人に物件を紹介してもらってください」とアドバイスしたりしてますね。

鹿嶋

誰から買うかということも、重みを持ってきますね。

10年くらい前までは診断という業務はゼネコンさんや知り合いの方から「そんな仕事で食っていけるのか」と言われてきましたが、僕の中では既存の建物というのは今後必ず新しい産業になる、ビジネスになると思っていました。
最近やっとそれが形になり、こうやって同じテーマで話ができる仲間も増えてきて、建築業界と不動産業界を橋渡しするちょうどいい存在になれるはずだと思っています。
今の段階で参加してくことに意味があると思います。

大西

業界のなかで分断されている建築と不動産業界の橋渡し、ユーザーと業界の橋渡しといろんな役割を担うのがホームインスペクターで、今後ひとつのビジネスチャンス、新しい常識の形という風になっていきますね。

今回は皆様ありがとうございました。

  • ※1:既存住宅の瑕疵担保責任保険: http://search-kashihoken.jp/session/
  • ※2:両手取引:ひとつの不動産業者が売り手と買い手双方から手数料を受取る取引
  • ※3:昨年度試験の参考図書:
    建設住宅性能評価解説 2008 (既存住宅・現況検査―一戸建の住宅編)
    木造住宅工事共通仕様書 平成20年改訂(全国版)
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