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【コラム】「Q. 今年の通常総会会場《自由学園 明日館》はどんなところ? A. F.L.ライトゆかりの名建築です!」

建築・設計

2018-06-18

日本ホームインスペクターズ協会(JSHI)は、この4月で団体設立から10周年を迎えました。
節目となる2018年度通常総会は、リノベーションするなどして魅力的に再生された建物で開催できればと探したところ、東京・西池袋にある《自由学園 明日館》を予約することができました。アメリカ人建築家のフランク・ロイド・ライト(1867-1959)ゆかりの名建築として知られています。

自由学園 明日館》は、羽仁もと子(1873-1957)と吉一(1880-1955)夫妻が創立した学園の学び舎です。開校当初は女学校で、1921年に中央棟(上の写真)と西教室棟(下の写真)が先ず竣工し、1925年(大正14)に東教室棟、1927年(昭和2)に講堂(2枚下の写真)が建てられました。

学舎の建設について、羽仁夫妻が相談したのが、友人の建築家・遠藤 新(1889-1951)でした。遠藤は当時、ライトの設計で東京・日比谷に建設中だった旧《帝国ホテル》に携わっており、ちょうど来日中だったライトを羽仁夫妻に引き合せました。夫妻の教育方針に共感したライトが、予算・工期の両面で火の車だった《帝国ホテル》との同時進行、短納期、低予算だったにもかかわらず、設計を快諾したと言われています。

ライトはその後、《帝国ホテル》の設計者を解任されてしまい、中央、西教室の2棟が竣工した1921年に、工事半ばでアメリカに帰国してしまいます。東棟と講堂(上の写真)の設計と工事を引き継いだのが、ライトが「My son(我が息子)」と呼んで信頼し、共同設計者に指名された遠藤でした。

ライトの遺構は現在、日本国内に4つしかありません。《自由学園 明日館》はその貴重なひとつであり、3棟と講堂を合わせて、1997年に国の重要文化財に指定されています。

ライトが「プレイリースタイル」と称したこちらの建物、同時進行の《帝国ホテル》から端材を持ってきたと言われる大谷石が目を惹きつけますが、構造は木造です。
職員による無料のガイドツアー(但し見学料要、14:00〜)で教わったのですが、東西の棟の回廊を美しく形どった柱も、鉄筋が入っているわけではなく、内部の四隅はなんと木材で、中央部分は空洞で銅管が入っています(拳で軽く叩いてみると、鉄骨柱ではないことがわかります)。後付けの雨どい以外は見当たらず、建物全体をスッキリと見せている秘密が、この「四角柱」の中にあるのです。

自由学園 明日館》は、学園が1934年に東京・東久留米市に移った後も大切に使われてきましたが、「雨漏りのライト」という不名誉な異名が示す通り、屋根を筆頭にあちこちが劣化、見た目の傷み具合もかなり進んでいました(ガイドツアーでは当時の写真が披露されます。参加者全員が思わず「えー?!」と驚愕した衝撃的な写真でした)
1997年に重文指定を受けた後、国と都の補助を受けて、1999年(平成11)から本格的な保存・修理工事が行われます。工事は通算約6年、2期にわたり、講堂の工事が終わったのが昨年の夏。工事の前半については学園ホームページの修理工事記録に詳しい記述があります(後半の講堂の工事について知りたい方は、総会の第1部で開催する、職員の福田竜氏による記念講演「ライト建築の継承と動態保存 ~自由学園明日館講堂の保存修理からみえてきたもの~」にお申し込みください)

ここで特筆したいのは、保存修理が終わった後、重要文化財だからと扉を閉ざすのではなく、地域に開かれた運営を行なっていることです。ライトがデザインして大正時代に制作された椅子やテーブルも、修理して、喫茶室(女学校当時は礼拝室)で使われています。腰を下ろしてみると、当時の日本人女性がとても小柄だったことが実感できます。

建物の内部は、受付で見学料400円を支払えば(使用状況によりますが)ほぼ通年で見学できます。コーヒーか紅茶に焼き菓子が付くセットはプラス200円です(6月20日の総会関連イベント参加者は、当日の有料時間帯に限り、団体割引が適用されますので、受付で申請してください)。ご利用案内はこちらをクリック。

コンサートや結婚式、お花や書道の発表会、企業の展示会会場として、人が使いながら、文化財としての価値を守り続けている《自由学園明日館》。その根底にあるのが、「動態保存」という考え方です。言い換えると、「人が使い続けることで、建物を長持ちさせる」というもの。これは、住まいの状態をきちんと把握し、必要な修繕を適時行なうことで長く住み続ける、人と住まいにとって幸福なホームインスペクションを追求して活動している当協会の理念と重なるものです。

遠藤新が設計した講堂では、結婚式も行なわれます。その際は、椅子を並び替えて、中央に真っ白なヴァージンロードを出現させます。挙式後は、中央棟2階の食堂に移動して披露宴という、ウェディングプランが人気です。

6月20日のJSHIの総会では、さすがに絨毯は敷きませんが、食堂で懇親会を行ないます。総会が閉会する19時半過ぎに講堂を出ると、道を挟んだ向かいに、大きなガラス窓から光がもれ、夜の自由学園の景観を、”食前酒”として味わうことができるでしょう。《自由学園 明日館》の通常営業は、ミュージアムショップが閉まる16時30までですから、このようなイベントがない限り、人工照明に浮かびあがる美しい姿を見ることはかないません。

上の写真は、あえて小さめにライトが設計した中央棟のエントランス(画面左下)から、食堂(画面右上)へと続く動線です。中央棟のあちらこちらで見られる、床レベルの差異の連なりは、ライトが視覚的効果を意識したであろうと思われるポイントです(ガイドツアーの解説より)

会員の皆さまには、ぜひこの機会に《自由学園 明日館》を訪れて、この空間を体感していただきたい。写真を見ただけでは、わからないことがいっぱいあります。
最後に、総会後の懇親会に参加する方、もしくは事前に館内を見学予定の方へ。食堂(上の写真)、または階下にある喫茶室に足を踏み入れたら、しゃがんで、床にも目を凝らしてみてください。微細ですが、表面に凹凸があります。いったいなんだと思いますか?

1999年に行われた保存・修理工事では、当時の床材を部分的に残すことができた会議室1925を除き、ベイマツ材を張り替えているので、近年になってできた凹凸です。職員の説明によれば、ハイヒールなど踵の細い靴底の厚でついた跡とのこと。床材を傷めるとわかっていながら、ハレの日に着飾って祝宴の席に臨みたい気持ち、おしゃれをしたい気持ちを抑えるような野暮はせず、多少の劣化もまた自然な経年変化と許容しているのだそうです。
内外観の随所に見られる大谷石も、雨に弱い特徴を思えばまた然り。どちらも見事なまでに貫かれた「動態保存」の姿勢を物語る、美しい床です。

例年6月に行なっている通常総会は、前年度の決算報告や本年度の予定事業について、協会が正会員に説明して、承認をお願いする大事な場です。「足を運んでよかった」と満足していただけるよう、記念講演なども毎年併催しています。
今年は、明日館で最初に竣工した学園PR室(上の写真)にて、16時から法人賛助会員3社による特別展示会を併催します。住宅や建物診断の現場で役立つ道具類を展示、ブースには同会員が常駐するので、いろいろと確認もできます。17時には講堂に展示ごと移動して、天気と時間の許す範囲で、駐車場で商品のデモストレーションも行なう予定です。

通常総会に関して、JSHI正会員には5月26日投函で議案書を郵送しています。開封して内容をご確認のうえ、出欠等を事務局宛に必ずご連絡ください。
詳細資料は、会員専用ページ(要ログイン)にも掲載していますので、お目通しをお願いいたします。
みなさまのご参加をお待ちしております。
総会開催日はおそらく梅雨入りしている頃ですが、天気に恵まれますよう、皆さんにも一緒に祈っていただければ幸甚です。

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